この記事では、富士通(証券コード6702)の強み・弱みと今後の将来性について、決算短信・有価証券報告書など一次情報をもとに整理します。「重くて遅い大企業」と見られてきた富士通が、なぜ営業利益率を数年で5%前後から10%前後へ引き上げてきたのか——その構造転換の中身と投資家が押さえるべきリスクを体系的に解説します。

著者について:個人で投資・企業分析を継続するブログ運営者が執筆。決算短信・有価証券報告書など一次情報を読む分析スタイルを採用しています。特定銘柄の投資推奨はしません。


はじめに

この記事の対象読者

  • 富士通(6702)の株を新NISAや長期投資で検討している方
  • 富士通の強み・弱み・将来性を投資目線で整理したい方
  • 日本のDX・官公庁デジタル化というテーマに投資したい方

この記事でわかること

  • 富士通の事業内容と収益構造(DXサービス・保守運用フィー)
  • 投資家が押さえるべき強み・弱み・将来性
  • 短期・長期のリスクと注目すべき論点
  • 株主還元・配当の方針
  • NTTデータ・日立など同業との比較ポジション

結論サマリー

富士通は「総合電機の看板を下ろし、官公庁・大企業向けDXサービスに集中して利益率を引き上げ中」の構造改革株で、日本のDX化という10年単位のテーマに腰を据えて乗りたい長期投資家と相性が良い一方、短期の値上がり益や高配当を求める投資家には向きません。

参照した情報源

本記事は以下の一次情報を中心に作成しています。

  • 富士通 2025年3月期 決算短信・有価証券報告書
  • 富士通 中期経営計画・株主還元方針に関するIR資料
  • 富士通「Fujitsu Uvance」関連の公表資料
  • デジタル庁・総務省の自治体システム標準化に関する公開情報

最終更新日

2026-06-16


企業概要:この会社、何をしてる?

富士通は1935年創業、もともとは電話交換機の製造から始まった会社です。本社は東京都港区、証券コードは6702、東証プライム市場に上場しています。戦後にコンピュータへ転換し、大型コンピュータ・スパコン・半導体・パソコンと、戦後日本の電機・IT産業をまるごと体現してきた「総合電機」のひとつでした。

ところが現在の富士通は、その総合電機の姿をほぼ脱ぎ捨てています。半導体は分社・売却、HDDも売却、パソコン事業はLenovoとの合弁に移管。残った主戦場は、企業・官公庁向けのITサービス事業——SIer(システム構築を請け負う事業者)業務にクラウド・コンサル・マネージドサービスを加えたDXソリューションです。

「Fujitsu Uvance」というDXブランドの下で、製造・金融・公共・モビリティといった社会課題領域向けソリューションを欧州・アジア・オセアニアにも展開しています。「日本の官公庁IT屋」のイメージのまま捉えると、富士通の今の姿は半分しか見えてきません。

基本データ

項目 内容
商号 富士通株式会社
証券コード 6702(東証プライム)
設立 1935年6月
本社所在地 東京都港区東新橋
主要事業 ITサービス(DXソリューション・SI・クラウド・保守運用)
営業利益率 5%前後(2019年度・調整後5%台)→ 10%前後(2023〜2024年度)
主要顧客 中央省庁・自治体・大手金融・大手製造業
主要市場 日本・欧州・アジア・オセアニア

※ 出典:富士通 2025年3月期 決算短信・有価証券報告書

売っている相手は誰か

誰からお金をもらっているかと言えば、ほとんどが「日本の大企業・官公庁・自治体」です。中央省庁の基幹システム、地方自治体のシステム、大手金融機関の勘定系、製造業の生産管理——日本社会のインフラの裏側でデータを動かしている会社、と言うと近いかもしれません。


収益構造:どこで稼いでいる?

富士通の収益構造を理解するキーワードは、「売り切りハードから、継続課金サービスへの徹底シフト」です。

かつての富士通は大型コンピュータ・サーバー・PCを売るハードウェアビジネスが中心で、「一度売ったらそこで利益確定」というモデルでした。今の富士通はその真逆で、顧客の基幹システムをクラウドに移行し、保守・運用・改善を長期契約で継続的に提供する形に置き換えています。

意外な稼ぎ方:売上をわざと縮めて利益率を上げる

見落とされがちですが、富士通はこの数年、売上をわざと縮めながら利益率を引き上げてきた会社です。半導体やHDDのような巨大売上事業を切り離し、低採算の受託開発を選別し、高採算のDXサービスに資本と人材を寄せる——その結果、2019年度に5%前後だった営業利益率は、2023〜2024年度に10%前後の水準まで改善しました(出典:富士通 2025年3月期 決算短信)。日本のIT大手では珍しい変化です。

利益率の意味を正確に押さえたい方は営業利益・経常利益・純利益の違いもあわせて参考にしてください。

もう一つの収益源:基幹システムの保守・運用フィー

外からは見えにくい収益源が「基幹システムの保守・運用フィー」です。中央省庁・大手金融・大企業の基幹システムは、富士通が数十年前に組んだものが現役で動いているケースが多く、その面倒を見続けているだけで安定収益が積み上がります。新規受注がなくても、過去の案件が毎年利益を生み続ける構造です。

ここにマイナンバー・デジタル庁・自治体システム標準化といった政府のDX政策が重なります。放っておいても発生する保守収益の上に、政策起点の大型案件が継続的に乗ってくる——「単発の特需」ではなく「数年単位の発注パイプライン」として効くのがポイントです。「富士通はシステムを作って売っているのではなく、日本社会の基幹システムの"家賃"を取り続けている」と捉えると、利益率改善の意味が見えてきます。


強み:なぜ富士通は強いのか

強み① 乗り換えコストが高すぎる顧客基盤

富士通の最大の強みは、「乗り換えコストが高すぎて他社に動かせない顧客」を大量に抱えていることです。中央省庁・大手銀行・大手保険・大手製造業の基幹システムには、数十年にわたって富士通が組み込まれてきた歴史があります。

これを丸ごと他社製に乗り換えるとなれば、コストは数百億〜数千億円、しかも数年間の業務リスクを抱える話になり、「安いから他社へ」という判断が現実的にほぼ取れません。

強み② 本当の競争相手は「現状維持」

意外な強みとして、富士通の本当の競争相手は外資コンサルや他SIerではなく「現状維持」だという点が挙げられます。顧客企業にとっての最大の選択肢はたいてい「今のシステムをそのまま使い続ける」こと。その現状維持をいちばん安全に運用できるベンダーが富士通なので、新規プレイヤーに切り替える積極的な理由が顧客側から出てきにくい。これは派手な技術力ではなく、時間と歴史が作った参入障壁です。

強み③ Fujitsu UvanceとAIによる生産性向上

富士通は近年、「Fujitsu Uvance」というDXブランドで業種横断ソリューションを世界に展開し始めています。製造業のサプライチェーン、金融のリスク管理、公共のスマートシティなど「単なるシステム開発」を超えた領域で、アクセンチュアやIBMなどグローバル勢と勝負する動きです。

さらに、生成AIを設計・開発・保守の現場に組み込み、一人あたりの生産性を引き上げようとしています。うまく回れば、人月単価で戦ってきたSIerビジネスの利益率がもう一段上がる可能性があります。


弱み・リスク・課題

富士通は構造改革で利益率を改善した銘柄ですが、SIer・官公庁IT特有の不確実性は無視できません。短期と長期に分けて整理します。

短期リスク

為替・検収タイミングによる業績変動

富士通の収益は長期保守と多年度プロジェクトで積み上がるタイプで、四半期ごとの決算サプライズで急騰する銘柄ではありません。むしろ為替や大型案件の検収(成果物の受け入れ)タイミングで業績がブレやすく、短期トレード視点では値動きが読みにくい面があります。

官公庁ITの「事故リスク」

マイナンバーカード誤交付のような自治体・行政システムの不具合は政治・社会的批判を受けやすく、発注側の心証悪化や指名停止リスクなど、外から定量化しにくい不確実性が常に乗ります。炎上ニュースで株価が振られる場面は今後もあり得ます。

長期リスク・弱み

生成AIによる人月ビジネスの構造変化

生成AIの進化で「人月ビジネス(人員×期間で対価を決める請負)は構造的に縮小する」という見方があります。富士通自身がAIを取り込んで生産性を上げる側に回ろうとしていますが、人月モデルの単価が下がる方向の圧力は長期で意識すべき論点です。

構造改革のペース

営業利益率10%台をさらにアクセンチュア並みに近づけられるかは、今後数年の経営の腕の見せどころです。改革のペースが市場の期待を下回れば、「結局スピード不足だった」という評価に傾くリスクがあります。

外資コンサルとの競合

Fujitsu Uvanceで挑むグローバル領域は、アクセンチュア・IBMなど強力な競合がひしめく簡単ではない戦場です。海外展開がうまく進まなければ、成長ストーリーの一角が弱まります。


株主還元・配当

富士通は成長への再投資・自社株買いに資本を回す性格の銘柄です。日本のディフェンシブ高配当株群と比べると配当利回りは控えめで、配当を厚くするタイプの会社ではありません。

配当の基本方針

富士通は安定的な配当の継続と、機動的な自社株買いを組み合わせる方針を掲げています。利益率改善に伴って株主還元の余地は広がりつつありますが、本質的には事業構造改革・成長投資が優先されています。

配当推移の概観

項目 内容
配当方針 安定配当+機動的な自社株買い
配当利回り(参考水準) 控えめ(株価水準で変動)
自社株買い 継続的に実施
株主優待 なし

※ 出典:富士通 2025年3月期 決算短信・株主還元方針資料。最新の確定額は公式IRをご確認ください。

配当を目当てに買う銘柄ではなく、利益率改善・構造変革に乗る成長枠として捉えるのが性格に合います。


将来性・今後の展望

富士通の中期経営計画では、「DXサービスへの集中」「Fujitsu Uvanceのグローバル展開」「営業利益率のさらなる改善」が主要テーマとして掲げられています。

成長ドライバー① 日本社会全体のDX化

デジタル庁・自治体システム標準化、医療・教育のデジタル化、官公庁クラウド化、大企業の基幹システム刷新——どれも来年・再来年で終わる話ではなく、向こう10年かけて発注が続く性質のものです。富士通の安定収益の土台になります。

成長ドライバー② 自社の事業構造改革

営業利益率10%台をさらに引き上げられるかが企業価値を左右します。低採算案件の選別、AIによる生産性向上、Uvanceの拡大が改革の柱です。

成長ドライバー③ Fujitsu Uvanceのグローバル展開

日本市場の顧客基盤と欧州の既存拠点を組み合わせて、業種横断ソリューションを世界に広げる動きです。純粋なSIerに留まらない成長の余地として注目されています。

注目イベント

  • 中期経営計画の進捗アップデート(営業利益率の推移)
  • 自治体システム標準化・デジタル庁関連の発注動向
  • Fujitsu Uvanceの受注・海外展開の進捗
  • 生成AI活用による生産性改善の成果

同業他社との比較

日本のIT大手の中で、富士通のポジションを整理しておきます。比較対象は、官公庁・金融に強いNTTデータグループ(9613)と、社会インフラ×ITの日立製作所(6501)です。

項目 富士通(6702) NTTデータ(9613) 日立製作所(6501)
主力領域 国内DX・官公庁IT 官公庁・金融・グローバルIT 社会インフラ+IT(Lumada)
強みの源泉 乗り換えコストの高さ 公共・金融の安定基盤 OT×IT融合・インフラ事業
利益率の特徴 改革で10%超へ改善 安定的だが投資負担も 事業ポートフォリオ改革で改善
主なリスク 官公庁事故・人月縮小 大型投資の回収 事業の幅広さによる複雑さ
株主還元 安定配当+自社株買い 安定配当 配当・自社株買いを強化

※ 出典:各社 2025年3月期 決算短信・有価証券報告書。数値は概算であり最新値は各社公式IRをご参照ください。

各社の立ち位置を1行で

  • 富士通:総合電機からDXサービスへ集中し、利益率改善を進める国内IT大手
  • NTTデータ:官公庁・金融の安定基盤を持つグローバルITサービス。NTTデータの分析記事も参照
  • 日立製作所:社会インフラとITを融合したLumadaを軸にポートフォリオ改革を進める総合企業。日立製作所の分析記事も参照

「DXサービスへの集中度」を取るなら富士通、「公共・金融の安定基盤」を取るならNTTデータ、「インフラ×ITの幅」を取るなら日立、という整理になりやすい構図です。


どういう投資スタイルと相性がよいか

向いてる人

日本のDX化に10年単位で賭けたい人

追い風が日本社会全体のDX化という長期テーマから来ているため、腰を据えて乗りたい方と相性が良い銘柄です。

ビジネス構造の硬さに納得して持てる人

派手な成長ストーリーより、「乗り換えコストの高さ」「保守フィーの積み上がり」という構造の硬さに納得して持てる方に向いています。

大企業の変身ストーリーを追いたい人

重厚長大IT企業がどこまで利益率を上げられるか、変身ストーリーごと追いかけたい方には、追える題材が豊富な銘柄です。

向いてない人

短期で値上がり益を狙いたい人

為替や大型案件の検収タイミングで業績がブレやすく、四半期サプライズで急騰するタイプではありません。

高配当・インカム狙いの人

配当利回りは控えめで、成長への再投資・自社株買いを優先する会社です。配当主役の銘柄ではありません。

SIerモデルに懐疑的な人

生成AIで「人月ビジネスは終わる」と本気で考える方や、「日本の大企業改革は結局スピード不足だろう」と冷めている方には、投資仮説の前提が合いません。

「絶対買え」「絶対やめておけ」という話ではなく、自分の投資スタイルと銘柄性格の相性を踏まえて、ポートフォリオ全体での組み入れ比率を考えるのが現実的です。


よくある質問(FAQ)

Q. 富士通の最大の強みは何ですか?

A. 乗り換えコストが高すぎて他社に動かせない顧客基盤(中央省庁・大手金融・大手製造業)を大量に抱えていることです。数十年にわたって組み込まれた基幹システムを丸ごと他社製に切り替えるには数百億〜数千億円とリスクが伴うため、競合が入り込みにくい構造的な参入障壁になっています。

Q. 富士通の弱み・リスクは何ですか?

A. 短期では官公庁システムの事故リスク(炎上で株価が振られる)と為替・検収タイミングの業績ブレ、長期では生成AIによる人月ビジネスの縮小圧力構造改革のペースが市場期待を下回るシナリオが主なリスクです。

Q. 富士通の将来性はどうですか?

A. 日本社会全体のDX化(デジタル庁・自治体システム標準化・基幹刷新)は向こう10年単位で続く流れであり、富士通の安定収益の土台になります。ただし生成AIによる人月モデルへの圧力や外資コンサルとの競合は長期リスクとして意識が必要です。投資は自己責任でお願いします。

Q. 富士通の株は新NISAで購入できますか?

A. はい、富士通(6702)の株式は新NISAの成長投資枠で購入可能です。東証プライム上場の大型株であり、日本のDXテーマで長期保有の候補として検討されることが多い銘柄です。最新の対象状況はご利用の証券会社サイトでご確認ください。

Q. なぜ富士通は売上を減らしているのに利益が増えたのですか?

A. 半導体・HDD・PCといった巨大売上だが低採算の事業を切り離し、高採算のDXサービスに資本と人材を集中したためです。売上規模より利益率を優先する構造改革によって、営業利益率が5%前後から10%前後の水準へ改善しました(出典:富士通 2025年3月期 決算短信)。

Q. 富士通とNTTデータ、どちらに投資するのが向いていますか?

A. 一概には言えません。DXサービスへの集中による利益率改善を取るなら富士通、官公庁・金融の安定基盤とグローバル展開を取るならNTTデータ、という整理が一般的です。ポートフォリオ全体の目的と相性で判断するのが現実的です。

Q. 生成AIで富士通のようなSIerは不要になりませんか?

A. 生成AIで人月ビジネスの単価が下がる圧力はありますが、富士通自身がAIを開発・保守の現場に組み込み、生産性を上げる側に回ろうとしています。基幹システムの保守・運用は乗り換えが難しく、AIだけで代替できる領域は限定的というのが現状の見方です。ただし長期リスクとして引き続き注視すべき論点です。


まとめ

富士通を一言で言うなら、「日本社会の基幹システムの"家賃"を取りながら、DXサービス企業に変身しつつある重厚長大IT」です。

総合電機の看板を下ろし、売り切りハードから手を引いて、官公庁・大企業向けDXサービスに絞り込む——この5年の変化は、日本の大企業改革のなかでも珍しく数字に表れているケースで、営業利益率5%前後から10%前後への改善はその証拠でもあります(出典:富士通 2025年3月期 決算短信)。

強みは乗り換えコストの高い顧客基盤と保守フィーの安定積み上がり。弱み・リスクは官公庁IT事故・人月ビジネスへの生成AI圧力・改革ペースの不確実性。将来性は日本のDX化という10年単位の追い風が根拠ですが、長期リスクも相応に存在します。

相性が良いのは、「10年単位で日本のDX化に賭けたい」「重厚長大企業の変身を追いかけたい」という長期投資家。逆に、短期トレード派・高配当インカム派・SIerモデルに懐疑的な派には、別の銘柄の方が向いています。


情報源・参考資料

本記事の作成にあたって参照した一次情報・二次情報を以下に整理します。最新値・最新方針は、必ず公式IR情報をご確認ください。

  • 富士通 2025年3月期 決算短信
  • 富士通 有価証券報告書
  • 富士通 中期経営計画・株主還元方針に関するIR資料
  • 富士通「Fujitsu Uvance」関連の公表資料
  • NTTデータグループ・日立製作所の2025年3月期 決算短信
  • デジタル庁・総務省 自治体システム標準化に関する公開情報

最終更新日:2026-06-16 / 次回見直し:四半期ごと


免責事項

※本記事は「企業分析」を目的とした内容であり、特定銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任でお願いします。投資判断に迷う際はFP・証券会社等の専門家にご相談ください。 ※掲載情報は作成時点のものであり、最新情報は各社の公式IR情報をご確認ください。